統合失調症は、現実との接触喪失(精神病性の症状)、幻覚(主に幻聴)、妄想(誤った思いこみ)、異常思考、感情の平板化(感情の幅が狭い)、意欲の欠乏、職業的・社会的機能の低下などを特徴とする精神障害です。
統合失調症は世界中でみられ、精神の健康上の重大な問題となっています。親からまさに独立していく年代の若者に発症することが多く、生涯続く能力障害に至る可能性があります。本人の人生に及ぼす影響や経済的損失からみても、統合失調症は人類を苦しめる最悪の障害の1つとされています。
世界保健機関(WHO)によると、統合失調症は全世界における能力障害の原因として第9位を占める病気です。地域によって平均よりも高率または低率なところがありますが、平均すると人口の約1%に統合失調症がみられます。発症率に男女の差はありません。米国では、統合失調症は能力障害に対する社会保障給付日数の約5分の1、医療費全体の2.5%を占めています。統合失調症はアルツハイマー病や多発性硬化症より多くみられる病気です。
統合失調症では症状になじみがないために治療を受けるのが何年も遅れる場合があり、発症時期の特定が難しいことがよくあります。統合失調症の平均的な発症年齢は、男性で18歳、女性で25歳です。小児期や青年期初期に発症することはあまりありません(精神の病気: 小児統合失調症を参照)。年をとってから発症することもあまりありません。
社会的機能の低下は、薬物などの乱用、貧困、ホームレスの原因となります。治療を受けたことがない統合失調症の人が、家族や友人との接触を失って、都市部の路上で生活していることもあります。
原因
統合失調症の正確な原因は不明ですが、現在の研究では、遺伝的要因と環境的要因が組み合わさって起こる可能性があるとみられています。しかし、根本的には生物学的な問題であり、親の育て方が悪かったり、精神衛生的に不健全な環境で育ったりしたことが原因で起こる障害ではありません。一般の発症リスクが1%であるのに比べて、統合失調症の親や兄弟姉妹をもつ人のリスクは約10%です。一卵性双生児の1人が統合失調症だと、もう1人の発症リスクは約50%になります。これらの数字は遺伝的なリスクの存在を示しています。
このほか、(1)妊娠中期(13〜24週)のインフルエンザ感染、(2)分娩中の低酸素状態、(3)出生時の低体重、(4)母体と胎児の血液型不適合など、出産前後や分娩中に発生した問題が原因となることがあります。
症状
統合失調症は、突然発症することもあれば、数日から数週間かけて発症することもあり、また何年にもわたって徐々に水面下で発症していくこともあります。重症度と症状のタイプは人によって異なりますが、多くの場合、仕事、対人関係、身の回りのことをする能力が損なわれるほど重度の症状が生じます。中には、精神機能が低下した結果、ものごとに注意を払う能力、抽象的に考える能力、問題を解決する能力が損なわれる場合もあります。精神の損傷の重症度が、統合失調症になった人の全般的な能力障害の主な決定要因となります。
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多大な緊張を強いられる出来事といった環境的ストレスが引き金となって症状が現れ、悪化することがあります。マリファナなどの薬物も、症状の引き金となったり、症状を悪化させたりします。全体的にみて、統合失調症の症状は大きく分けて、陽性症状(非欠陥症状)、陰性症状(欠陥症状)、認知障害の3種類になります。3種類のすべてに該当する症状がある人もいれば、いずれか1〜2種類の症状だけの人もいます。
陽性症状には、妄想、幻覚、思考障害、奇異な行動などがあります。妄想は誤った信念のことで一般に、知覚や体験の誤った解釈に関係しています。たとえば、被害妄想がある人は、いじめられている、後をつけられている、だまされている、見張られているなどと思いこみます。関係妄想では、本、新聞、歌詞などの1節が特に自分に向けられていると思いこみます。人は自分の心が読める、自分の考えが人に伝わっている、外部の力によって考えや衝動が自分の中に吹きこまれているなどと思いこむ思考奪取や思考吹入という妄想もあります。音、視覚、におい、味、感触についての幻覚が生じることがありますが、最も多いのは音の幻覚(幻聴)です。自分の行動に関して意見を述べる声、互いに会話する声、あるいは批判的で� �汚いことを言う声などを「聞く」ことがあります。
思考障害とは思考が支離滅裂になることをいい、話にとりとめがなく、話題が次々に変わり、何を言いたいのかわからない意味不明な会話をします。話すことが多少混乱している程度の場合もあれば、完全に支離滅裂で理解できない場合もあります。奇異な行動は、子供のようなばかげた行為、興奮、不適切な外見、不衛生、不適切な行動などの形で現れます。奇異な行動の極端な形をカタトニー(緊張病)といい、一定の姿勢を崩さず、周囲の人が体を動かそうとすると強い抵抗を示したり、逆に目的のない非誘発性の体の動きをみせたりします。
陰性症状とはそれまであった性質や能力が失われる症状で、感情鈍麻、会話の貧困、快感消失、社会性の喪失などがあります。感情鈍麻とは感情が平板化することです。表情に動きがなく、人と目を合わせず、感情表現が欠如します。普通の人なら笑う、あるいは泣くような状況でも、何の反応も表しません。会話の貧困とは、思考の低下により言葉数が少なくなることをいいます。質問に対する返答は1語か2語と短く、内面の空虚さをうかがわせます。快感消失とは楽しいと感じる能力が低下することで、以前は楽しんでやっていたことに興味を失い、無目的なことに時間を費やします。社会性の喪失とは、他者とのかかわりに興味を失うことです。これらの陰性症状は、全般的な意欲喪失、目的意識の欠如、目標の喪失としばしば� ��連しています。
認知障害とは、集中力、記憶力、整理能力、計画能力、問題解決能力などに問題があることをいいます。集中力が欠如しているために、本が読めなかったり、映画やテレビ番組のストーリーが追えなかったり、指示通りにものごとができなかったりします。また、注意が散漫になり、1つのことに集中できない人もいます。その結果、細部まで注意が必要な仕事、複雑な作業、意思決定ができなくなります。
統合失調症のタイプ
統合失調症を単一の障害と考える研究者もいれば、多数の障害がその基礎にある症候群(症状の集まり)と考える研究者もいます。明確なグループに細かく分類する試みとして統合失調症の亜型が提案されていますが、個々の患者の亜型が時とともに変化することもあります。
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妄想型の統合失調症は妄想や幻聴にとらわれるのが特徴で、支離滅裂な会話や不適切な感情はあまり顕著ではありません。破瓜(はか)型または解体形の統合失調症は、支離滅裂な会話と行動、平板あるいは不適切な感情を特徴としています。緊張型の統合失調症は、じっと動かない、やたらと動き回る、あるいは奇妙な姿勢を取るといった行動が特徴的です。分類不能型の統合失調症は、妄想と幻覚、思考障害と奇異な行動、陰性症状など、異なる亜型の症状が混在するのが特徴です。
診断
統合失調症の診断の決め手となる検査はありません。既往歴や症状を総合的に評価して診断します。症状が最低6カ月続き、仕事、学業、社会機能に顕著な低下がみられることが診断の必須条件です。家族、友人、教師などからの情報は、発症時期を特定するのに重要です。
臨床検査を行って、精神病性の症状を引き起こす可能性のある薬物などの乱用の有無や、内科疾患、神経疾患、内分泌系の疾患などが基礎にないかどうかを調べます。そのような疾患の例として、脳腫瘍(のうしゅよう)、側頭葉てんかん、甲状腺疾患、自己免疫疾患、ハンチントン病、肝臓病、薬物の副作用があります。薬物乱用の有無を調べる検査を実施するのが妥当とされる場合もあります。
統合失調症の人の脳に異常があり、それがCT検査またはMRI検査で検出されることがあります。ただし、その異常は統合失調症の診断に役立つほど特異的なものではありません。
経過の見通し
統合失調症の治療では、患者が治療の指示をきちんと守ることがきわめて重要です。薬物療法をしないと、70〜80%が診断時から1年以内に統合失調症の症状を再発します。継続的に薬を服用すると、再発率は20〜30%程度に下がり、症状は大幅に少なくなります。退院後、処方薬を服用しない人では1年以内に再入院する確率が非常に高くなりますが、指示通りに服用すると、再入院率が驚くほど低くなります。
このように、薬物療法の有効性は証明されているにもかかわらず、統合失調症の人の半数が処方薬を服用しません。自分が病気であるという認識がないため服用を拒む人もいれば、不快な副作用を嫌って服用しなくなってしまう人もいます。記憶障害、支離滅裂な思考、あるいは単に経済的理由から薬の服用をやめてしまうケースもあります。
患者が薬物療法の指示を守れるようにするには、指示通りに服用することの妨げになっている問題を取り除くのが最良の方法です。薬の副作用が問題の場合には、別の薬に替えるとよいでしょう。医師や心理療法士と一貫した信頼関係ができると、自分の病気を受け入れやすくなり、治療に関する指示をきちんと守ることの必要性を認識するようになります。
長期的にみると、統合失調症の経過の見通しはさまざまです。一般に、3分の1に顕著で持続的な改善がみられ、3分の1には断続的な再発や残存する能力障害はあるもののある程度の改善がみられ、残りの3分の1が重度で永久的な無能力の状態となります。良好な経過の見通しに関連する要因としては、突然の発症、発症年齢が高い、発症前の能力や業績が高レベル、陽性症状(産出的な症状がみられる非欠陥性の亜型)などがあります。経過の見通し不良に関連する要因としては、発症年齢が低い、発症前の社会的機能や職業的機能が低い、統合失調症の家族歴、陰性症状(非産出的な症状の、欠陥性の亜型)などがあります。
統合失調症の人のおよそ10%が自殺します。
治療
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統合失調症の治療では、全般的な目標として、精神症状を軽減させ、症状の再発とそれに伴う機能低下を防ぎ、機能をできるだけ高いレベルに維持することを目指します。抗精神病薬、リハビリテーションと地域支援活動、そして心理療法が治療の柱となります。
抗精神病薬: 薬は、妄想、幻覚、支離滅裂な思考などの症状を軽減するのに効果があります。急性の症状が治まった後、抗精神病薬を継続的に使用すると再発の可能性をかなりの割合で抑えることができます。
ただし残念なことに、抗精神病薬には、鎮静作用、筋肉の硬直、ふるえ、体重増加、動作不穏などの副作用があります。また、くちびるや舌をすぼめる、腕や足をねじるなどの動作を特徴とする遅発性ジスキネジーという不随意運動障害が生じることがあり、ときには薬を中止しても治りません。遅発性ジスキネジーが長びく場合、効果的な治療法はありません。このほか、抗精神病薬が原因で起こる悪性症候群という副作用があります。この副作用はまれですが、死亡する可能性があり、筋肉の硬直、発熱、高血圧、精神機能の変化(錯乱、眠りがちになるなど)などが特徴です。
副作用が少ない新しい抗精神病薬も、数多く開発されています。これらの新しい薬は従来の抗精神病薬に比べて、陽性症状(幻覚など)、陰性症状(感情喪失など)、認知障害(精神機能の低下、注意持続時間の短縮)をかなり広い範囲にわたって軽減します。
クロザピンは、他の薬が効かなかった人の半数に効果があることが示されています。ただし、発作や骨髄抑制(ときに死に至る)など、重大な副作用を引き起こすことがあります。このためクロザピンは一般に、他の抗精神病薬が効かなかった人に対してのみ使用します。クロザピンを服用する場合、少なくとも最初の6カ月間は、白血球数を毎週測定しなければなりません。白血球数が減少している徴候が少しでもあれば、ただちにクロザピンを中止します。
リハビリテーションと地域支援活動: 職場訓練などの地域支援活動は、地域社会で生きて行くのに必要な技能を教えることを目的として行われています。仕事、買い物、身なりなど自分の身の回りを整えること、家事、協調性などを学びます。重度の再発を起こした場合は入院が必要で、特に自分を傷つけたり他者に危害を加えるおそれがある場合は強制入院となりますが、地域社会で生活できるようにすることが全般的な目標です。そのために、処方通りに薬が服用されているかどうか確認できる監督者付きの住宅やグループホームで生活する必要がある人もいます。
統合失調症の人の中には、重度で治療に反応しない症状があったり、地域社会で生活していくために必要な能力が欠如しているために、自立して生活できない人も少数います。そういう場合は、安全でサポート体制の整った施設での完全看護が必要です。
心理療法: 心理療法では一般に、本人、家族、そして医師との間に協力関係を築くことを目標とします。そうすることにより、本人が自分の障害を理解してコントロールし、処方通りに抗精神病薬を服用し、障害を悪化させる可能性のあるストレスを管理する方法を学びます。医師と患者の間に良好な関係が築けるかどうかが、しばしば治療の成否を握る鍵となります。心理療法で症状が治まるケースもあれば、再発防止に役立つ場合もあります。
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