2012年5月13日日曜日

麻酔


麻酔

              

麻酔は身体と精神の苦痛を除去する方法で、手術や処置の時には必要不可欠です。
苦痛緩和が目的であるため、単に麻酔薬で動物を眠らせて不動化させれば十分である、とはいえません。
麻酔の導入前、麻酔中、そして麻酔から覚醒した後も鎮痛と鎮静が保たれるようにする必要があります。

動物が痛みに耐える能力が強く、また、痛みを訴えないという理由から今でも鎮痛剤や鎮静剤を用いずに麻酔をかける獣医師がいます。
動物麻酔は苦痛緩和の点で大きく進歩しており、古い麻酔はもはや通用しません。

麻酔は、(T)全身麻酔法と (U)局所麻酔法に分類されます。
以下にそれぞれの概要を記載します。
また、麻酔をかける前に全身状態を安定させる目的で各種の(V)麻酔前投薬も使用されます。

(T) 全身麻酔法

(@) 全身麻酔法の目的


全身麻酔法は中枢神経系(脳と脊髄)に薬剤を作用させて麻酔状態を得る方法です。
全身麻酔法状態の定義は、以下の4つの条件を満たすことです。
(1957年 George Woodbidge提唱)
すなわち

1.意識消失   2.鎮痛   3.筋弛緩  4.反射抑制

です。
(A) 吸入麻酔薬と静脈麻酔薬
全身麻酔薬は、
A.吸入麻酔薬(吸気ガスに混ぜて肺胞から吸収させる)
B.静脈麻酔(静脈注射により投与)
に大別されます。

両者とも全身投与されるため、全身麻酔作用の標的(脳、脊髄)以外の全身臓器にも作用する可能性があり、呼吸循環系への副作用が発生します。そこで、こうした副作用を考慮の上全身麻酔法を試行する必要があります。

A.吸入麻酔望ましい吸入麻酔薬の条件は以下です。

@麻酔作用が可逆的で残存効果がない
A安全域が広い
B室温で容易に気化する
C麻酔作用が強力で低濃度で使用できる
D血液溶解度が低く、導入・覚醒が速やかである
E科学的に安定で高橋賢一の物質と反応して有害物質を生じない
F生体内代謝率が低い
G不燃性、非爆発性
H安価
など。

また、薬理学的に望ましい条件は
@適度な筋弛緩作用を有する
A有害な自律神経反射を抑制する
B気管支刺激症状がない 気管支拡張作用を有する
C呼吸循環抑制作用が少ない
D不整脈誘発作用が少ない
E臓器毒性が少ない
など。

亜酸化窒素(笑気)が発見されてから10種類以上の吸入麻酔薬が開発されましたが、副作用のため中止された物もあります。
現在日 本で使用される薬剤は以下です。

@亜酸化窒素            
Aハロタン (またはハロセン)  常温で     
Bエンフルラン
Cイソフルラン
Dセボフルラン
です。

@は常温で気体であるためガス麻酔薬とも言います。

A〜Dの4種類は常温では液体で、揮発させて使用します。
揮発性麻酔薬とも言い、使用に際してはそれぞれに対応する専用の気化器が必要です。
以下に代表的な吸入麻酔薬について述べます。

@.亜酸化窒素
亜酸化窒素の血液/ガス分配係数


クリーブランド、オハイオ州で減量センター
(注1)は小さく、麻酔の導入と覚醒は極めて早く、循環と呼吸抑制はほとんどありません。他の吸入麻酔よりは鎮痛作用は強いが麻酔作用は弱く、手術麻酔では単独で用いることはほとんどありません。
一方、体内の閉鎖空間の体積が増加するという欠点があります。
閉鎖空間の組成はほぼ窒素です。亜酸化窒素の血液溶解度は窒素よりも高いため、閉鎖腔内の窒素が血液中に溶解するよりも、血液中の亜酸化窒素が閉鎖腔に拡散する速度が早いからです。
そのため、気胸、イレウス、空気塞栓時の亜酸化窒素使用は禁忌です。
また術後の悪心おう吐の頻度が多いことや、大気汚染の� ��題が指摘されているため使用頻度は減少していますが、今でも有用な麻酔法です。
注1血液/ガス分配係数(blood/gas partition coefficient)は、平衡状態に達した吸入麻酔薬の濃度に対する血液中の吸入麻酔薬の濃度の比。吸入麻酔薬の導入と麻酔からの回復の指標となります。
血液/ガス分配係数が小さいnitrous oxideは、吸入麻酔薬の導入と回復は速くなります。


D.セボフルラン
セボフルランは日本で最も多く使用されている揮発性麻酔薬です。
セボフルランの血液/ガス分配係数は亜酸化窒素に次いで小さく、麻酔の導入と覚醒は速やかで、調節性に優れています。
気道刺激性が少ないために吸入時の咳誘発が少なく、小児の緩徐導入にも使用しやすい利点があります。
気管支拡張作用を有しており、喘息患者にも使用できます。
一方、心筋収縮力抑制と血管拡張作用があるため血圧低下を起こしますが、循環抑制はハロタン、エンフルランよりも軽度です。
またハロタンで見られる心筋のカテコラミン感受性亢進による不整脈誘発作用は少なく、毒性についてはほとんど問題がありませ� ��。
生体内代謝で産生される無機フッ素は高濃度では腎臓毒性を持ちますが、通常量のセボフルランではごく微量です。また、麻酔器内のソーダライム(ソーダ石灰;炭酸ガス吸着物質)と反応して微量の腎毒性物質コンパウンドAが生じますが通常は問題になりません。
B.静脈麻酔薬
頻用されている静脈麻酔剤は、プロポフォール、ケタミン、バルビツレイト(チオペンタール、チアミラールなど)があります。
吸入麻酔薬と比較した場合の長所は以下です。

@吸入酸素濃度を任意に決定できる(100%酸素吸入も可能)
A環境汚染がない
B心筋のカテコラミン感受性を高めない

 現在全身麻酔の導入と維持の目的、または、人工呼吸中の鎮静の目的で広く使用されているのはプロポフォールです。
プロポフォールは水溶性が低いため、脂肪乳剤に懸濁させています。
長所は、麻酔の導入と覚醒が速やかであること、術後の悪心おう吐が少ないこと、肝臓腎臓への影響が少なく、肝硬変や腎不全でも使用できることです。
短所は、静脈投与時の血管痛、呼吸の抑制、心臓拍出量減少と末梢血管拡 張による低血圧が起こることです。
 プロポフォールには鎮痛作用がないため、麻酔時には亜酸化窒素、麻薬性鎮痛薬、または硬膜外麻酔などの区域麻酔法を併用する必要があります。
吸入麻酔薬だけで全身麻酔をかけることを全静脈麻酔といい、プロポフォールを中心にして実践されています。

(B) バランス麻酔
 全身麻酔は単一の麻酔薬で行われることはほとんどありません。その理由として単一の麻酔剤では全身麻酔の4条件(意識消失、鎮痛、筋弛緩、反射抑制)を満たすための使用量では呼吸・循環抑制が顕著に表れ、覚醒が遅くなってしまうからです。
そのため、薬剤を組み合わせて副作用を軽減させて行われる麻酔をバランス麻酔と言います。
 4条件を満たすための一般的組み合わせは以下です。

・ 意識消失には全身麻酔薬(吸入、静脈麻酔)を併用します。
・ 鎮痛のために麻薬性鎮痛薬や区域麻酔法を併用します。
・ 筋弛緩のためには筋弛緩薬や区域麻酔法を併用します。
・ 反射抑制のためには自律神経作動薬や筋弛緩薬を併用します。

バランス麻酔に頻用される鎮静剤(トランキライザー)
・アルファ2作動薬:メデトミン
オピオイド:酒石酸ブトルファノール
ベンゾジアゼピン:ジアゼパム、ミタゾラム
フェノチアジン:アセプロマジン
ブチルフェノン:ドロペリドール

(U)局所麻酔法

最近、動物の「疼痛」に対して関心が高まっています。各種疾患や外傷あるいは治療に伴う疼痛をケアする「疼痛管理」の概念が普及しつつあります。
術後の疼痛を緩和するために手術時の全身麻酔に局所麻酔を併用することがあります。術後の疼痛を軽減させて手術後ストレスを緩和させ ると体調回復に良い影響を与えることが知られています。

(@)局所麻酔法の種類と適応

局所麻酔は、脊髄から知覚神経受容体までのそれぞれの場所をブロック(神経の働きを遮断するという意味)します。部位によって5つに分類されます。


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1.表面麻酔
皮膚や粘膜表面に直接塗布し、皮下へ浸透させて神経終末に作用させて除痛します。
例えば、
・ 局所麻酔剤入りの発布剤(テープ)を皮膚に貼り、静脈穿刺時の除痛を行う
・ 局所麻酔入りのビスカス(ゼリー状)を口腔内に投与し、内視鏡挿入時の除痛を行う
・ 喉頭に局所麻酔スプレーをかけて内視鏡挿入や挿管時の咽喉頭反射を抑制する
・ 眼球、球結膜に局所麻酔薬を点眼する
・ 鼻腔や口腔内に局所麻酔薬を塗布して除痛する

2.浸潤麻酔
皮内または皮下に局所麻酔薬を注射し、注射薬の及ぶ範囲の神経を遮断します。
感染巣などがあって直接注射できな� �ときはその周囲に浸潤麻酔を行います。皮膚の狭い範囲の無痛を得るのに利用されます。

3.伝達麻酔
末梢神経の中枢側の近くに局所麻酔薬を注射し、その神経の支配領域を無痛にします。
歯科で使用する下顎神経ブロック、指手術時の指ブロック麻酔、上肢手術時の腋下神経(上腕神経叢)ブロックなどがあります。

4.硬膜外麻酔
脊柱管内で脊髄を包む脊髄硬膜の外側(硬膜外腔)に局所麻酔を投与して脊髄神経をブロックしてその支配領域を無痛にします。首から下の脊髄神経はどこでもブロックできます。広い範囲の無痛を得ることができ、開胸、開腹、下肢手術時に利用されます。
ただし硬膜外腔への穿刺は技術を要します。

5.脊椎麻酔
腰椎以下の脊髄の外側(くも� ��下腔)へ局所麻酔を投与して脊髄神経をブロックし、そこから下(尾側)を無痛にします。
下腹部、会陰、下肢の手術に用います。

(A)局所麻酔薬の特徴と選択

市販薬の名称を表1に示します。

表1  局所麻酔薬の種類と麻酔方法
一般名 商品名 適応される麻酔方法
表面 浸潤 伝達 硬膜外 脊椎
エステル型 塩酸プロカイン ・塩酸プロカイン
・オムニカイン
塩酸オキシブプロカイン ベノキシール
塩酸コカイン 塩酸コカイン
塩酸テトラカイン テトカイン
塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル テーカイン
アミド型 塩酸リドカイン キシロカイン
塩酸メピバカイン カルボカイン
塩酸ロピバカイン アナペイン
塩酸プビバカイン マーカイン
塩酸ジブカイン ペルカミン


局所麻酔薬の選択は、効果発現までの時間と持続時間で決めます。
効果持続時間の長い麻酔薬は効果の発現が遅く、持続の短い麻酔薬は発現がはやくなります。
持続短時間型の局所麻酔薬に10〜20万倍エピネフリンを加えると毛細血管が収縮して麻酔薬の消失が遅れて麻酔効果が持続します。
浸潤麻酔ではエピネフリンを加えることで血管を収縮させ出血を抑えることもできます。


ジョアン痛みモビール、アラバマ州

1.表面麻酔
・眼球と球結膜の表面麻酔には、コカイン、テーカイン
・ 耳鼻咽喉粘膜の表面麻酔には、オキシブプロカイン
・ 口腔、咽頭粘膜の表面麻酔には、リドカインビスカス
・ 皮膚の表面麻酔には、リドカインテープ(ペンレス)(効果発現30分)

2.浸潤麻酔
プロカインは効果持続時間が短く、リドカインとメピバカインは中時間、プピバカインは長時間です。
術後鎮痛などで長く麻酔しておきたいときは、長時間作用型を用います。
短時間、中時間型麻酔剤にエピネフリンを加えると持続時間は50%程度延長します。

浸潤麻酔時
局所麻酔薬
使用濃度(%) 効果発現 持続時間(時間)
プロカイン 0.5 速い 0.5〜1.5
リドカイン 0.5 速い 1〜3
メピバカイン 0.5 速い 2〜3
プピバカイン 0.125 遅い 4〜12


3.伝達麻酔
伝達麻酔に使用する局所麻酔薬は浸潤麻酔よりも高濃度で使用します。
太い神経内部に局所麻酔薬を浸透させる必要があるからです。
リドカインとメピバカインは1〜2%
ロピバカインは0.75%
プピバカインは0.25%
をそれぞれ使用します。

4.硬膜外麻酔
伝達麻酔同様高濃度を使用します。主にアミド型局所麻酔薬を用います。
麻酔導入時は効果発現の早いリドカインまたはメピバカインを用います。
術後鎮痛目的には長時間型のロピバカインまたはピプバカインが頻用されます。

5.脊髄麻酔
日本で使用されるものは4種類あります。高濃度を使用しますが脊髄液で希釈されて至適濃度になります。
作用時間は、
リドカイン 30分
テトラカイン 2時間
プピバカイン、ジブカインで3時間
程度です。

(B) 局所麻酔薬使用時の注意点

@ 抗凝固剤や抗血小板薬は休薬すること。
伝達麻酔、硬膜外麻酔、脊髄麻酔時は針で血管を刺すことがあります。もし出血傾向があると大出血を起こしたり血腫を形成したりして危険です。

Aエピネフリン添加の効果。
持続短時間型の局所麻酔薬に10〜20万倍エピネフリンを加えると局所の血管が収縮して麻酔薬の消失が遅れて麻酔効果が持続します。
しかし指間や陰茎などの終末動脈の付近には使用禁忌です。この部位は毛細血管吻合がないため血流低下で組織壊死が起こるおそれがあります。
またエピネフリンは交感神経β刺激剤であるため、高血圧症、心不全疾患、甲状腺機能亢進症には注意を要します。

B 血管内には投与禁止。
神経付近では伴走する動脈や静脈があります。神経遮断の目的で刺した針が血管を刺すことがあるため、注射器を引いて血が出てこないことを確認します。
万一局所麻酔薬が血管内に入ると脳内の局所麻酔薬濃度が急上昇して中毒症状を起こします。

人の場合、リドカインでは以下のような症状が起こります。
血中濃度3〜5μg/mlで眠気、話しにくい、ろれつが回らないなど。
7〜8μg/mでl四肢や顔面の振戦出現。
20μg/ml以上では全身けいれんが起こります。
けいれんにはジアゼパム、ミタゾラム、チアミラール、プロポフォールを静注します。

C 投与方法による最大1回限度量の違い。
血管以外でも、投与部位によって局所麻酔薬の血中濃度は大きく変化します。
例として、粘膜から吸収は極めて早く口腔内粘膜の使用時は血圧管理が重要です。
・ 硬膜外麻酔と脊髄麻酔では血圧低下に注意
この麻酔は比較的広範囲の末梢交感神経も麻酔されるために、末梢血管は弛緩、拡張し、血圧が低下します。そこで、輸液量を増やしたり、昇圧剤の注射投与などによって血圧を維持させます。
脱水状態またはショック状態では交感神経が過度に緊張しているため、このような状況ではこの麻酔法は適切ではありません。


 (V)麻酔前投薬(Premedication, Preanesthetic Medication)

(1) 目的

A) 催眠、鎮静
  手術前の恐怖、不安感を除きます。不安感があると代謝が亢進し、麻酔薬に対する抵抗性が増加し、また刺激に敏感になります。

B) 代謝量の低下と刺激性の減少
  代謝と刺激性は相関します。代謝を低下させておくと麻酔薬を減じることができます。

C) 気道分泌の抑制
  気道内分泌量が多いと肺合併症が増加します。

D) 有害神経反射の抑制
  麻酔薬や手術操作による副交感神経反射はまれに心停止も起こします。この反射を副交感神経遮断剤で抑制します。

E) 痛覚閾値の上昇
  予め鎮痛薬 を投与して鎮痛効果の少ない麻酔を補助します。

F) 誤嚥性肺炎の予防
  胃酸の酸性度や胃液量を減少させます。

(2)バルビタール剤(Barbiturates)


 標準的な催眠・鎮静薬として使用されています。鎮静効果は麻酔よりも強力です。
主に、短時間作用型のpentobarbital,secobaribitalが使用されます。
経口投与では1時間後に効果が発現し、3〜4時間持続します。そこで麻酔導入2時間前に投与します。

欠点は、
@鎮静作用はないため痛覚閾値は低下する。
A副交感神経を刺激する
B大量で呼吸循環抑制がある
C高齢者では時に興奮する

(3)トランキライザー(tranquilizer)

A)強力トランキライザー、強力な精神安定薬 (major tranquilizer)
フェノチアジン系(chrolpromazine,promethazine)などがあります。
自律神経抑制作用と鎮静作用が強く、さらに、抗ヒスタミン作用、代謝低下、制吐作用、分泌抑制作用があり、前投薬の目的にかなっています。

chrolpromazineとpromethazineの比較
chrolpromazineは交感神経遮断作用がより強く低血圧を起こしやすくなります。また鎮静作用、代謝低下作用、体温下降作用もより強力です。
一方、promethazineは副交感神経遮断作用が強く、抗ヒスタミン作用も強力で、前投薬としてはpromethazineがより多く使用されます。

B) 弱トランキライザー、弱精神安定薬 (minor tranquilizer)
精神安定作用が期待できるが自律神経遮断作用がより弱いものを弱トランキライザーと分類しています。
主に催眠と鎮静目的で広く使用されています。呼吸循環への影響も少なくBarbituratesが使いにくい場合に適しています。
chlordiazepoxid(バランス)、diazepam(セルシン)、hydroxyzine(アタラックス)、nitrazepam(ネルボン)、flurazepam(インスミン)、
lormetazepam(ロラメット)、midazolam(ドルミカム)、brotizolam(レンドルミン)など。

(4) 麻薬 (narcotics)
 催眠、鎮静、鎮痛効果があります。鎮静作用はBarbituratesより劣りますが、多幸感(euphoria)があり鎮静には好 都合です。術前から疼痛を訴える患者さんには最適です。また術中の麻酔薬を減少させることができます。
モルヒネ(morphine)やメペリジン(meperidine)などがあります。

副作用は、
@呼吸抑制。最大呼吸抑制は皮下注射後30〜60分で発現し鎮痛作用よりも長時間続くため術後呼吸器合併症の原因になり得ます。
A循環系抑制。特に、ストレスに対する代償能力が低下します。末梢平滑筋を弛緩させます。
B悪心おう吐。延髄の嘔吐中枢を刺激します。
C腸管の蠕動運動抑制。便秘症になります。
D気管支、胆道、子宮などの平滑筋収縮。 そのため、気管支喘息や胆石症には注意を要します。

一方、動物で多用される麻薬に酒石酸ブトルファノールがあります。(20� �5年から日本でも入手可能)
本剤は鎮静・鎮痛・鎮咳作用を持つ合成麻薬で、効力はモルヒネの5〜8倍強力です。
麻酔前投薬とさらに麻酔時と術中術後管理に使用されます。
投与経路は静脈、筋肉、皮下、硬膜外、経口投与(いずれも0.2〜1mg/kg)が可能です。
静脈では2〜3分で作用が発現します。筋肉投与では15〜30分で血中濃度は最大となり、鎮痛効果は最大4時間持続します。
酒石酸ブトルファノールは鎮痛効果を得るために、単独またはアセプロマジン、ドロペリドール、メデトミジン、ジアゼパム、ミタゾラムなどの鎮痛剤と併用します。
手術では、吸入麻酔剤(セボフルランなど)の濃度を減らす目的で使用します。また導入時の注射(プロポフォール、チオペンタール、ジアゼパム)と の併用も可能です。
酒石酸ブトルファノールはモルヒネに比べ、心血管系、呼吸器系への影響はかなり軽微で、呼吸抑制や徐脈、低体温はほとんど起こりません。
使用量の安全域は広く、50%致死量は50mg/sと常用量の250倍に相当します。
しかし過剰投与による副作用は発現することはあります。
甲状腺機能低下症、重症腎不全、衰弱した高齢動物では高容量投与は危険です。
また他の麻薬同様、脳血管拡張と頭蓋内圧亢進の危険性があり注意を要します。
万一以上の副作用が出た場合は拮抗剤のナロキソンを投与し、昇圧剤酸素投与などの全身管理が必要です。

(5)抗コリン薬 (anticholinergic drug)
副交感神経の反射刺激を遮断します。
副交感神経(ア� ��チルコリンによるムスカリン様作用)刺激によって、心拍数低下、唾液分泌亢進、縮瞳、消化管蠕動亢進、発汗、末梢血管拡張が起こります。抗コリン薬はこれらに拮抗します。

ベラドンナアルカロイドのアトロピン(atropine)とスコポラミン(scopolamine)
非ベラドンナアルカロイドのglycopyrolateなどが使用されます。
この薬剤は手術中の徐脈(迷走神経反射や麻酔薬による徐脈)の治療に有用で、麻酔補助薬としても使用されます。


〔アトロピンの中毒症状〕
@高度の頻脈
A過度の口内・皮膚乾燥
B全身皮膚の紅潮
C体温上昇
Dせん妄状態(中枢神経刺激)
E呼吸抑制
F眼圧上昇   (狭隅角緑内障では禁忌)
中毒を起こしやすい状態として、発熱時、脱水状態、気管支炎、気管支喘息などがあります。
〔中毒の対処〕
ほとんどの場合はアトロピンの分解を待ちながら経過観察を行います。
緊急的に拮抗する時は、拮抗薬のneostigmineを使用します。

(6) 麻酔前投薬の注意

@ 年齢、体質、一般状態、感受性、麻酔法などにより、薬剤の種類と量を調節する必要があります。特に、高齢、状態不良では鎮静薬は少なめにします。

A� �逆に、代謝亢進時、不安感の強いときは鎮静薬を多めに使用します。

B前投薬後は安静を保ち、経過を十分に観察します。外見上変わりがなくとも、自律神経機能が不安定となり、状況判断力が低下している可能性があります。急に暴れたりすることもあります。

C前投薬後はその効果が十分発現するときに麻酔導入時間を合わせる必要があります。もし手術時間が遅れた場合は追加投与が必要になります。

ご意見、ご質問は管理人までお寄せ下さい。

麻酔
2006年12月31日作成



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